無敗のまま5階級を制覇してプロボクシングを引退したスーパーボクサー、フロイド・“マネー”・メイウェザーに対する世間のイメージは、どちらかといえばネガティブなものが多いかもしれない。神業のテクニックと光速パンチの一方、クラスを上げていく中で目立つようになった安全運転の戦いぶりやどぎつい成金趣味は、確かに一定数のアンチを生んできた。

「メイウェザーを怒らせてはいけない」という教訓が込められた一戦になったので、このファイトも最後に付け加えておきたい。

同試合の4ラウンド、なかなかパンチが当たらないことに苛立ったオルティスが、ロープ側で勢い余ってメイウェザーに“頭突き”をかましてしまったのが始まり。当然、タイムがストップされ、ブーイングの中でオルティスに減点が言い渡される。

この中断の間、メイウェザーが今まで見せたことがないような怒りの表情を浮かべ、目をぎらつかせながら、私のポジションに近いニュートラルコーナー前に歩いてきた。そのためこちらの位置からは彼の“沸騰具合”がよく分かったのだが、レフェリーとオルティスの2人は別の方向を向いてペナルティの通達をしている最中だったので、それにほとんど気づいていなかったようだ。

案の定というか、再開後、オルティスは軽率にも仲直りのハグに出て、その場を取り繕おうとする。しかし、メイウェザーはこれに応じることなく、無防備なサウスポーに怒りの強打を浴びせ、右1発でKOしてしまった。アクションは再開されていたので合法的なパンチである。それこそメイウェザーがジムで日々磨きをかけていたような、いざという時の本気の右だったのかもしれない。