こうして立浪監督の話を聞くと、若さ故の無鉄砲さに映る。しかし、高橋はこのいきさつをどう感じているのだろう。直接話を聞ける機会を設けてもらったので、高橋本人に聞いてみた。「監督から言われたんだって?」と話を向けると、高橋はまったくあっけらかんと「はい、そうなんです」と、爽やかな笑顔を見せた。

素直なんだと、その言葉しか浮かんでこなかった。そして、同時に、この素直さならば、立浪監督の苦言もしっかり理解できただろうし、こうやって学んでいけば、それこそ他球団の選手から吸収できることはたくさんあるだろうとも思えた。

まず、いきなり山本由伸スタイルをまねできる器用さにも驚かされるし、やってみようという行動力も20歳らしく感じる。そして何よりも、また元のフォームにそれほど違和感なく戻せる運動能力の高さだろう。

ピッチャーの感覚は繊細なもので、いったん左足の動かし方を変えてしまえば、それは上半身の動きとも連動しているため、1カ所の変更が全体に影響することも多々ある。

監督から注意を受けて、元に戻すとなれば、多少なりとも焦りや「しまった!」というマイナスの緊張感が出て、ちょっとしたパニックになってもおかしくない。WBCが直近に控えているのだから、そういう影響が出ても不思議ではない。

それが反省して、後に引きずらず、さらにすぐに元に戻したフォームで、しっかりしたボールを投げている。山本由伸スタイルではいまひとつだったボールの質も、元通りになっているから、ほっとするやら、若い高橋の器用さに驚くやら、いろんな意味で頼もしい若きエース候補という印象だった。

どのフォームが自分に合っているのか、なぜ山本由伸さんはあんなボールが投げられるのか、そういう疑問から、今回の大胆なフォーム改造に発展したのだろう。そして、自分に合うものを、はからずも再認識するに至ったのは、無駄なトライアルでもなかったはずだ。