今大会の日本代表で投手陣の精神的支柱となったのがダルビッシュだ。WBCは2009年以来。メジャー勢で唯一、宮崎合宿から参加し、自らの経験値を惜しみなく他の投手陣に伝えるなど、その存在感はMVPの大谷に勝るとも劣らぬ日の丸のリーダー的存在だった。

【写真】WBCでも大勢のファンにサインするダルビッシュ

 マウンドでも1次ラウンド・韓国戦での先発を皮切りに、その後はブルペンでもフル稼働。準々決勝、決勝とクローザーに橋渡しするセットアッパーとしても奮闘した。

 00年代後半から長く日本球界最高の投手として、君臨してきたダルビッシュも今や36歳。自らもキャリアの終末期にさしかかっていることを認め「最後になるかもしれない…」と、WBCでは東京ドームで超満員の日本ファンをバックに投球できたことに〝喜び〟を語る場面もあった。

 WBC直前の2月には、6年総額1億800万ドル(約141億円)で所属するパドレスと再契約。実質42歳のシーズンまでパドレスでのプレーを保障される立場となった。日本のマウンドがこのWBCで〝ラスト〟と言われるゆえんは、こんな側面にある模様だが、一方でキャリアの最後を〝日本で〟という可能性も「ゼロということはない。むしろ、今回の契約はその可能性に含みを持たせていると思う」と語るのが、過去にダル獲得に関わったMLBの編成関係者だ。

 パドレスとの新たな契約は、全チームへのトレード拒否権という付帯条項つき。本人が最終的にどこでプレーするかを選択できる権利を持つことに加え、ダルビッシュ自身がMLBでキャリアを重ねるたびに、育ててもらった日本球界への恩義を年々感じるようになっていて、その一旦はWBCでの振る舞いからも顕著だったと指摘する。

「昔は若い選手にアドバイスするような選手ではなかったけど、日本の野球レベルが、さらに上がってほしいという気持ちがあるんだろうね。プレーだけじゃなく、プロとしての姿勢とかも。昔はサインするのも嫌だったろうけど、今は100枚ぐらい普通にやる」

 球場内外で時間を見つけては、サインを求めるファンにペンを走らせる姿もしかりという。「それは見られている意識があるからできることで、そういう姿勢を後輩に見せて普通に、当たり前にやらないといけないことなんだよと」。常に行動や所作でも日本球界の発展を念頭に置き〝発信〟を繰り返してきたためだ。

 当面は、長期契約を結んだ先のパドレスに貢献を果たすことが第一義となる一方で、前出関係者は「野球も含め日本以外の国を知ったことで、日本が昔よりも、はるかに好きになったことも間違いない」と今後も〝故郷〟への愛着は増していくものと推察する。

「キャリアの最後に広島に戻った黒田も『最後は日本で』という話を(広島復帰前に所属していた)ヤンキースと契約更新のたびにしていたみたい。パドレスとダルも、とてもいい関係だと聞くし新しい契約で、どんな形の最後になるかはまだちょっと想像もできない。〝ひょっとしたら〟も含めてね」

 数年後の日本球界復帰も消滅したわけではなく、キャリアの最後をどうするかは、まだ確定したわけではない模様だ。

 いずれにせよ日本歴代ナンバーワンにも挙がる稀代の右腕は、今季もMLBで不動の先発ローテーション投手としての働きが期待される存在。今後も日米、両球界から、その動向が注目される存在であることに変わりはない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/140dd09f55ad396f7c8467abd7560c2c4696910d