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●突然、ツイッター上で「契約解除」が発表された

早乙女さんは、スカウトされた小学3年の春休み(2019年3月)、事務所代表と専属タレント契約を結んだ。その後、活動する中で、先
ほどの述べたようなファンとのトラブルにあった。

そうした中、代表は2019年8月、会社を設立して、新たに契約を結ぶよう求めてきた。

しかし、代表はそれまで、ファンの行き過ぎた行為を制止せず「嫌がったりすると、仕事がなくなるよ」などと言っていたため、早乙
女さんは不信感を募らせていた。

そこで、早乙女さん側が、新しい契約を結ばないままタレント活動を続けていると、2020年2月に契約についての再確認があった。

母親が理由を述べたうえで「契約したくない」と言うと、事務所側は「一度持ちかえって話し合いをしましょう」と言った。

ところが、その翌々日、事務所はツイッター上に「このほど、所属タレントyuaに禁止行為が発覚したため、保護者に事実確認したうえ
で契約解除をいたしました」「所属タレントに対して、顧客であるファンたちと直接コンタクトをとることを明確に禁止しておりま
す」などと投稿した。

このとき学校の授業を受けていた早乙女さんは、投稿内容を母親からのLINEで知った。

「ただショックでした。母から聞いて家に帰って自分で見て、びっくりして『ゆあが何か悪いことしたのかな』って思って。禁止行為
はしていないのに、頑張っていたのにやめさせられたんだって知って、悲しくなった」(早乙女さん)

母親が代表に電話をするも出てもらえなかったため、父親から連絡をして「事実に反するからすぐ消してください」と言うと、「禁止
行為があったので消しません」と返されたそうだ。

「そんな事実はないのに、これでは娘がファンと直接やり取りをして闇営業をするイメージを持たれてしまう。ゆあの信用を失墜させ
て、今後の活動ができないようにしたいのかと思いました」(父親)

●「そもそも『禁止行為』は明記されていなかった」

ちょうど春休みを迎えた早乙女さんは「芸能活動を続けたいけれど妨害されたらどうしよう」と1人で悩むようになっていた。同時に、
事務所側の発表を真に受けた人たちからなのか、批判やアダルト動画をDMで送られたりするなどの嫌がらせを受け、事務所代表と同じ
名前を耳にするだけで怯えるようになった。

そんな姿を見た両親は3月、事務所代表と事務所を相手取り220万円の損害賠償と、ホームページとツイッターアカウントに謝罪文の掲
載を要求する訴訟を提起した。

「裁判は私がやるって決めました。ずっと仕事を頑張って平日でもライブをしてきたのに、その頑張りがなかったことにされたのは裏
切りだし、ちゃんと本当のことを伝えたかった。同じような目に遭う子が増えるのも嫌だったから」(早乙女さん)

裁判は、9回の口頭弁論を経て、今年10月13日、代表らに対して44万円の支払いを命じる判決が言い渡された。裁判で早乙女さん側は次
のような主張していた。

・不特定多数の人が閲覧するツイッターに「禁止行為があった」と投稿するのは、原告の社会的信用を失墜する行為であること

・法人化した事務所と早乙女さんは契約していないので、契約を解除された事実はない

一方、早乙女さんの代理人をつとめた河西邦剛弁護士は、事務所が言う「禁止行為」自体が、そもそも契約時に明記されていなかった
と指摘する。

「1週間後に事務所はツイッターを削除していますが、消して終わりではありません。自分自身について事実ではないことが芸能事務所
から発表されたことは、誰であっても受け入れがたいことです。真実を明らかにし、早乙女さんの毀損された名誉を回復するための訴
訟でした。芸能事務所には早乙女さんを受け入れた以上、辞めるにしても最後までタレントを大切にしてもらいたかった。芸能事務所
による解除発表が名誉毀損にあたる事例を示した判決という意味でも社会的意義は大きい」(河西弁護士)