>>2 つづき
バイト先にスカウトマン

 そうして高校を卒業したが、就職はしなかった。彼女にとって仕事は「芸能」以外は考えられなかった。それでも毎日、仕事があるわけではな
い。空いている時間に、六本木界隈の芸能人御用達のBARでアルバイトをするようになる。結局3年以上つづけたアイドル活動には見切りをつけ、
辞めていた。

 紗理奈が働いていたBARの常連が、AVのスカウトマンだった。彼女も声をかけられたが、はじめは断った。それでもしつこく通っては口説いて
きた。

「話だけでも良いから、って言われてたから、話聞いてみて嫌だったら断ろう、って思うようになってきて。それで事務所に行ったんです。そし
たら凄いビックリしたんです。『明るい』というか『普通』の雰囲気で。AV業界、その事務所ってもっと暗い、ドロドロしたところだと思ってた
んで……」

 事務所に行った日、紗里奈は「やってみようかな……」と返事をした。その翌週にはAVメーカーの面接をめぐるスケジュールが組まれ、その次
の週には初仕事が決まった。

「もう。あっという間でしたね。初めてのギャラですか? 5万円です。2時間くらいで終わったんで。でも正直、『安いんだなぁ』って思いまし
たね。1カラミだけで、内容もソフトだったのもありますけど」

 『安いギャラ』でも、彼女はAVの仕事は辞めようとは思わなかった。ここにも子役や売れなかったアイドル時代の影響がある。

「だって『主役』『主演』なんで。私にとってAVでも地上波のドラマでも『作品』であることには変わりありません。演じることは同じなんで
す」

 AVはいいけれど風俗店では働きたくない、というのもこうした考えがあるためだ。彼女にとって、男優は「作品」のための共演者。だが風俗の
客はそうではなく、行為も「作品」にはならない、からだ。

 気になるのは家族の反応だ。

「はじめての撮影から帰ってきて、親に言いました。『AVに出てきたから』って。実家暮らしですから、『今日はどこ行ってたの?』とか聞かれ
てそのうちバレちゃいますからね。親はびっくりしていましたけれど、『ドラマとか撮るのと同じだから』って説得して。アイドル辞めてからバ
イト以外何もしていなかったから、仕事をし始めたことで、そこは安心だったみたいです」

 まさかの即日親バレである。いまでは友人も皆、彼女がAVに出演していることは知っている。初対面の相手がいる飲み会でも「はじめまして、
AVの仕事やってまーす」と隠さないそうだ。
 
 月に1本のペースで撮影、そして意外な“副業”も…

 紗理奈が企画女優として活動をはじめ、3年以上になる。いくつかの芸名を使い分け、出演作数は100本以上の作品に出ている。彼女のような企
画女優は複数の女優が出演するのが一般的で、しかも彼女が出るのは、ここで書くのがはばかられるようなハードな内容ばかり。だが、あっけら
かんとしている。

「AVの仕事って、最初の数ヶ月で仕事が切れて無くなるのが当たり前なんです。続けて行くにはNGを減らすことしかない。つまり、他の女の子が
嫌でやりたくないことをやっていくしかないんですよね。そういうことを続けているうちに分かってきて。NGだと思った仕事も『意外と平気じゃ
ん』ってなって。それで今では月に一本のペースで仕事はきます」

 そして実はいま、ある大手企業の営業職として働いている。間もなくボーナスが出るのが楽しみだと言う。

「きっかけはコロナで現場が全部バラシになったからですね。『AVなんてすっごい濃厚接触しかないじゃん』って。コロナの終息なんて誰も分か
らないじゃないですか。その時に、昔から付き合いがあった方から来ない? って誘われたんです。営業だから結果さえだせば時間の自由が利く
し、ということで。さすがに職場の方々にはAVに出ていることは伏せていますけれど」

 趣味は貯金。都内の中古マンションが軽く買える金額が貯まっているという。最近の20代、30代の女性を取材すると、彼女のように、生活には
何の苦労もない実家住まいの子が多い。かつての私がそうだったように、地方から出てきて生活のために“究極の選択”として売春をする女性た
ちの立場がないではないか……。