第29回読売演劇大賞…受賞作・受賞者紹介

フェイクの時代 希望灯す「言葉」…大賞・最優秀作品賞 「フェイクスピア」(NODA・MAP)

 言葉は虚構や 嘘うそ を生み出すが、真実もまた言葉でしか迫ることが出来ない。芸の真実は虚構と現実との微妙なはざまにあるという近松門左衛門の虚実皮膜論を引き合いに出すまでもなく、演劇でしか語れない言葉の力を信じ、希望を 灯とも すことは出来ないか。

 作・演出の野田秀樹が30年以上温めてきたテーマが、フェイクニュースが 跋扈ばっこ して真実が炎上しかねない現代社会、そして芸術文化の不要不急が叫ばれたコロナ禍の中で実を結ぶ。

 題材としたのは、520人の命を奪った日航機の事故。ボイスレコーダーに残された機長らの言葉の迫力を前に、野田が創作物では太刀打ち出来ない無力感を覚えたとしても無理はない。

 受賞作では、死者の言葉を伝達するイタコ、演劇の神様・シェイクスピアの名せりふ、サンテグジュペリの「星の王子さま」、神武天皇の道案内をした 八咫烏やたがらす 神話などを頼りに、生と死、現実と現実味を交錯させながら、得意とする言葉遊びや息をのむ群舞、美しい森の情景などで、演劇の言葉を舞台から客席へ届けた。

 最優秀男優賞の高橋一生をはじめ、ベテランの橋爪功、白石加代子、若手の前田敦子らとともに作品を練り上げ、信頼するスタッフが手抜かりなく支える。まさに総合力を結集させて言葉の力で現実に一矢報いようとする姿勢には祈りに似た 清々すがすが しさがあった。トップランナーたちの手による 渾身こんしん の舞台は、1次選考会、投票委員の投票とも最高票を得て作品賞に輝き、大賞へと登りつめた。

https://www.yomiuri.co.jp/culture/20220205-OYT8T50044/