その後私は正規メンバーへと昇格、と同時にグループを卒業した。

卒業して1週間足らずで憧れのラーメン屋のバイトも合格した。
卒業した直後はSNSのフォロワーも伸び続け全てがうなぎ上りだった。

それも数カ月したら落ち着いた。
自撮りのいいね数もフォロワーの数に見合うほどに落ち着き、良くも悪くも安定しだした。

だがそれでいい。ことが上手く運ばれすぎて怖いくらいだったので安心した。
なんて平和な日常なんだ。
20年間の人生で今が1番幸せだ。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、これが本当なんだ。
今はほかに何もいらない。
全てが満たされている感じだ。
つまらなくなんかない、幸せだ。

そして今日も私はバイト先へ向かう。

ラーメン屋に着くといつもの大将、いつもの先輩がいて。

「はやかちゃん、ごめんね。今変な人が来てるの。もしかしたらはやかちゃん目的かも...念の為しばらくここで隠れてて!」





なんだ...?いつもと違う。

なんだか喉がくすぐったく感じる。
まるで台風の時学校にいるみたいな、そんな感じがした。

「あ、もう大丈夫かな...?はやかちゃん、出てきていいよ!」

よく分からないが、その後は何事も無かったかのように取り敢えず働いた。
今日も店は忙しい。
さすが、私が認めたラーメン屋だ。
ここのラーメンが一番うまい。

そして数時間後にはすっかり忘れていた。
家に帰るとまたいつも通り。
筋トレをして風呂に入り、夕飯を作って食べた。
今は夏野菜をたっぷり使った野菜炒め、そして胸肉。
作る時間、食べる時間も至福の時間だ。

夜の22時半、インターホンがなった。
はいはい、宅配便の方ね。
ほぼノールックでオートロックの鍵を解除した。



そしてその時、やっと気づいた。
日常に紛れ込んだ異変に気づいた。が、遅すぎた。

荷物を持った男、何故私服だったのだろうか。
そして今日の出来事が頭をよぎる。
ジワジワと額が、胸が、熱くなるように、冷たくなった。

「ピーンポーン」

部屋のチャイムが鳴る。
大丈夫、鍵は閉まってる。
大丈夫、大丈夫。







でも。

私はドアノブに手をかけた。

ごめんなさい、みんな。

こんなに幸せなのに、どうして。

どうしてだろう。







私はただ

つまらない大人になりたくなかった。