>>297

続き

ー南無阿弥陀仏ー
ー南無阿弥陀仏ー

朗々とした節回しの凛とした声の念仏と、死への恐怖に慄きながら身動きを封じられるワシと
正に常軌を逸脱していた

「さあ皆様ご焼香を」

何度も言うが、ワシはこれから死に逝く
しかしまだ生きているのだ、生きながらえているのだ
まるで死ねと言っているかのようだ
しかしワシはそれだけのことをやってきたのだ
まだ死んでいない人間のために、女の教誨師の先導で拘置所長一同が生きている人間の為に焼香をするというのは異様な光景だ
目隠しをされ、猿轡を噛まされ、砕けた肩からは骨が飛び出て異様な方向に曲がりながら腕の動きを封じられ、足も縛られている

そしてワシの命を繋いでいるのは、一枚の踏板と一本の絞縄のみだった

ー南無阿弥陀仏ー
ー南無阿弥陀仏ー

バッターーーーーーーーーーーーーーン!!!!

聴覚だけは生きていたワシの鼓膜を破るような音が響き、踏板が抜ける

一瞬の静寂

虚空にぶら下がるその瞬間に聞こえてきたのは、あの教誨師の囁くような声だった

ージゴクヘオチロー
ージゴクヘオチロー


続く