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基本的にあらゆる事に無頓着なSが今日は自分の周りに起きる不思議な現象に悩んでいた

舞台で丸暗記した台詞を発声するお仕事をしている時に、見知らぬ小柄な少女が舞台袖からSを見詰めているのに気が付いた

Sは舞台からハケた後に他の共演者に、女の子が舞台袖に居たけど誰かの知り合いと訊いたが

そんな子は知らないわよ、何かの見間違いでしょと、まともに取り合っても貰えない

しかし次の舞台でも先ほどの少女が、今度は感染症対策でわざと空席にしてある最前列から、Sに熱い視線を向けてきていたのに気が付いた

それでやっとSも少女が人間ではないのを知った、恐怖で集中力が欠けてしまったSは
丸暗記した台詞を発声するお仕事で何回かトチってしまった

その為に舞台終演後にSだけ残ってスタッフと反省会をすることになった

しかし反省会の最中に今度はSだけに聞こえる少女の声で話しかけられてしまいSは取り乱した

そのためSの反省会にも関わらずに態度が集中力に欠けたものに見られてしまい

気の短いスタッフにSは叱られてしまい、今日は反省会はもう止めるから、帰ってゆっくり休んで、次はきちんとやれとだけ言われてSは解放された

そんなSの耳元で少女の声で「気にしない、気にしない、一休み、一休み、明日は明日の風が吹く」と話しかけられてますます怖くなる

だからSと一緒にご飯を食べるつもりでロッカールーム待っていた共演者に対しても

S「ごめんなさい、今日はちょっと食欲が無くて、先に帰って休みたいの」とだけ言って

そそくさと帰り仕度を済まして劇場を逃げるように後にした

しかし一番恐怖したのはご飯に誘って断られた共演者の方で

どんな重要な事を後回しにしてでも、ご飯だけは欠かさず食べるSが

食欲が無いからと断ったのは何か悪い事が起きる予兆かも知れないと頭を不安が過るのだった

Sが寄り道もせずに自宅に帰ると誰も居ないはずの室内から話し声がする

物陰から聴いていると一人はSのセイローシティーの幼なじみの青年の声だが

もう一人の方は今日初めて聴いたが忘れられない、あの少女の声であった

Sは青年には悪いが気付かれない様に逃げようと踵を返すと

室内から少女の声でSが帰ってきたよと青年に話すのが聞こえる

まだ間に合うかと全力で走って逃げようとするSの真後ろから

少女の声で「お帰りなさいS、7がSに逢いに来たよ」と話しかけられた上に

いつの間にか手まで握られていて逃げようにも逃げられない