>>109
あまりの事に騒然として、なかなか元の精神常態に戻れないワンボックスカー夫婦の耳に
また救急車のサイレンが近付いてくる、先ほどの救急車が帰ってきたのかと不審に思っていると

後から来た救急車が夫婦の前で止まると、降りてきた救急隊員が救急で呼んだのはあなた方ですか、怪我人は何処に居ますかと訊いてくる

夫婦は驚いて、つい先ほど別の救急車が搬送して行きましたがと答えると、救急隊員が急いで無線で本部に確認したが、この通報で向かったのは我々だけです

この辺りに他の救急の通報も有りません、怪我人が居ないようでしたら、私たちは帰りますが、人身事故として警察もこちらに向かってますので

念のために警察の方に詳しい事故状況を伝えてください
それで付近を捜索して怪我人が居ないのを完全に確認してから私たちは帰ります
やがて警察が来たので少女を轢いてしまった状況を可能な限り説明したが

道端で血を流して倒れていた少女の血痕一滴も発見出来ず

ワンボックスカーのブレーキ痕から推定される衝突場所から、かなりの広範囲を捜索しても少女が居た痕跡が発見出来ない

少女の両親から名前と連絡先と住所を聴いていたので調べて貰うも、該当者は見当たらず

少女を搬送した救急車に乗っていた隊員の名前も控えていたので調べて貰うも、やはり該当者は見当たらず

警察は我々だけで更に広範囲を捜索しますから、何か分かりましたら、ワンボックスカー夫婦にも連絡しますと約束して、ワンボックスカー夫婦に帰る様に促した

夫婦で頭を捻りながらワンボックスカーに戻ると、子供たちは待ちくたびれたのか寝てしまっている

後部席の子供の無事を確認した母親と父親、母親は子供たちは良く寝ているので起こさずに帰りましょうと父親に話すと先に助手席に座る

あの家族は何者だろうか、少女は無事に生きているのだろうか、いったい何だったのだろうかと、思い返しながら父親が運転席に座ると

サンバイザーと天井の間に何かが挟んで在るために、サンバイザーが収納位置よりも浮いているのに気が付いた

何かを挟んだ覚えがない父親が取り出すと、それは紙を細く巻いた物である

助手席の母親にも巻き紙の事を教えてからほどいてみると、それは紙幣で金額はちょうどあの家族に貸した金額と同額である

夫婦であの家族が返しに来たのかと思ったが、夫婦がワンボックスカーに戻るまで、子供たちの安全の為に鍵は掛けてあったのだった