>>410
裸電球がぶら下がった部屋の中、ガラパゴスは今まさに自らの命を絶とうとしていた。
目の前にはバケツいっぱいに並々と注がれたガソリン。
そして手にはコンビニで買った100円某のライター。
憎み続けたあの女が順調に活動し、自分の好きな荻野由佳の落ちぶれ具合に絶望したのだ。

いや、待て。
こんなワシだが、生きていてもいい。
人間誰しも生きる権利があるのだ。
誹謗中傷を重ね続け、くだらない長文を書きしたため、森七菜や武田梨奈で自慰に耽ったこんなみすぼらしく汚い老人にも、生きる権利があるのだ。
ガラパゴスは一筋の涙とともに、自決を思いとどまった。

「すみません、警察のものですが…」

不意に、けたたましくボロ家のドアが鳴り響いた。
ガラパゴスの蚤より小さい心臓は早鐘のように脈打ちはじめた。
息が詰まりそうな恐怖、ああ。
これが世に言う朝ノックというやつなのか。

「ガラパゴスさ…」

警官がガラパゴスの部屋に踏み込んだその瞬間。
慄くガラパゴスの指は反射的に手にしたままのライターのホイールを擦っていた。
そして、先程ガソリンをバケツに注いだ際にズボンに零したガソリンのシミは股間部分に出来ていた。
ガラパゴスが火を点けたまま落としたライターは、股間部分に吸い込まれるように落ちていった。

「うあうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

ガラパゴスの股間に火がつき、勢いよく燃え始めた。

「たしけ、たし、た、たあああ、たすけてああああああああああああああ」

滑稽である。
今さっきまで自決しようとしていた人間が、股間とはいえ一部の火傷で狼狽して叫んでいる。

「大丈夫かね君!よし、今から火を消してやる、それから身柄確保だ!」

警官の一人はガラパゴスの側にあったバケツに入った液体を勢いよくしゃぶりかけた。
そう、並々と注がれた、ガソリンである。


「ビィボっヴァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、ぼ、ボケーッ、ああ、あつい、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

今日はクリスマスイブ。
まるで蝋燭に灯った炎のように、肥えた醜い体は燃え続けた。




おわり