>>564
続き



ワシは謝罪民族どもを蹂躙した。
決まった。
決まりすぎた。
そう悦に浸っていた時だった。

「次のニュースです、あのちゃんが逃げ出しました」

あのちゃん。
ワシの愛しい女が逃げ出したと。
これは一体どういう事なのだ?
いや、ワシが逃げ出したあのちゃんを助ければ、あのちゃんはワシを愛してくれるかもしれない。
しかも逃げ混んだ場所はワシの掘っ立て小屋から近所ではないか。
ワシはあのちゃんを助けるべく行動した。

まではよかった。

あのちゃんがいるであろう場所に到着すると、ワシの耳に入ってきたのはブルル、ブルル…という動物の鼻息だった。
ブルル…ブルル…
そんな可愛いものではない。
まるで地獄の鬼が亡者を求めるようなおぞましいものだった。
現れたのは、ワシの身の丈をゆうに超える巨大な馬だったのだ。

「ぎゃあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

次の瞬間、右の薬指と小指にギロチンが落とされたような激痛が走り、腕ごと持ち上げられて振り回され、地面に叩きつけられた。
そう、ニュースで「あのちゃん」の名前だけで興奮したワシは、その「あのちゃん」の正体をニュースで確認しないまま行動していたのだ。
「あのちゃん」というのは、遺伝子操作された怪物馬だったのだ。
知能はワシを遥かに上を行き、残虐性はコモドオオトカゲのそれだという。

「ぁあああああぁあああああ指が、指がぁあああああぁあああああぁあああああぁあああああ!僕の右手を知りませんかああああああああああああああああああああああああいだぃあああああああああああああああああございます」

5本の手指が3本に。
見るも無惨な右手に目をやると、更に激痛が走る。
さらにあの恐ろしい鼻息を立てながらおもむろに近づいたあのちゃんは、蹄でワシの全身を蹴り回しはじめたのだ。

「いだい、あのあのあのあのあのちゃん、あのっはぁああああああああああああああああああああ、いだぃあああああああああああああああああああああ」

それだけではなかった。
あのちゃんは全身を複雑骨折したワシの首に尻尾を巻き付けたかと思うと、そのままワシを引きずりながら疾走しはじめたのだ。

「あのちゃん、あのぢゃあああああああいぐぁああああああああああああああああああああ、今逝くぁあああああぁあああああぁあああああぁあああああぁあああああ、んてことんてこと、謝罪民族ぁあああああぁあああああぁあああああぁあああああぁあああああぁあああああ」

絶叫しながら視界に入るのは、引きずられて千切れていくワシの貧相な手足。

「あのちゃ、あ…ん、てこ、と…」

あのちゃんのけたたましい嘶きが耳に入るのと、ワシが意識を手放すのは同時だった。




おわり