そして迎えたレース当日、相棒にまたがった瞬間「これはイケるかも」と直感。絶好の仕上がりに希望の光が見えた。あとは自分がリラックスして乗れば大丈夫――。スタート後に2番手へ。道中イメージ通りの立ち回り。ただ、周りは海外のトップジョッキーばかり。「世界最高峰の舞台でファロンやシュタルケと一緒に乗ってるんや…と思ったら緊張で頭が真っ白になってしまった」。雰囲気にのまれ、焦りが生じた。中盤で早くも先頭に立つと後続との差を広げ、レースをかき乱す形に…。あまりにも早すぎる仕掛けに他のジョッキーはビックリ。致命的な判断ミスだった。

 「うわ、やってもうた…となって顔は真っ青。ひと息入れようと思っても時既に遅し。直線入り口で後続がどんどん迫ってきた。冷静に乗れていれば、もっと接戦だったはず」

 直線、必死に抵抗したが5着が精いっぱい。英国馬ファンタスティックライトが3馬身差で快勝した。ゴールを駆け抜けた直後、3着ハイライズに騎乗していたデットーリが芹沢さんの乗り方に対して「F」から始まる放送禁止用語を連発。検量室では「何をしてくれたんだ、ジャパニーズ神風ボーイ!」と声を荒らげた。2人の間にピリピリした空気が漂う。「流れを崩したことに対しての怒り。それだけ手応えがあったんだと思う。最後はいろんな思いを込めて“サンキュー”と返した。デットーリは生涯、俺の顔を忘れないんじゃないか」。今となっては笑って話せるエピソード。苦い思い出は貴重な経験でもある。今ほど海外遠征が盛んではなかった時代に、はるか遠く中東で奮闘した男を覚えておきたい。