15枚目の選抜発表の頃、あるメンバーから「富士山は遠くから見るから綺麗なんや」と言われたことがある。
憧れは憧れとして遠くから眺めていた方が幸せだと言うのだろう。その時はその意味が分からなかった。
選抜の一員になって、その人が何を言いたかったかを理解した。
アイドルの夢の戦場だと思っていた場所は、裏から見れば大人の論理と冷徹な計算が支配する寒々しい場所だった。
私は血の通った同じ人間ではなく単なる使い捨て商品のように扱われた。
彼らはアンダー時代に私を刺したナイフ、錆びてボロボロになったナイフを持ち出して
最後の最後で私の腹や心臓をまたグサグサ刺したのだ。
昔のことは水に流して、乃木坂のために戦ってくれないかと頭を下げたくせに
今はまた手の平を返したように、労いの言葉ひとつも無く放り出す。
自分たちにとって利用価値が無くなればただのゴミだと言わんばかりだった。