新体制がスタートしてまだ10日も経ってないとあって、中畑の目にもバタバタしている社内の様子が飛び込んできた。
だだっ広いフロアにざっと50人くらい。新監督は足を止めるや否や、大きな声で「こんにちは!」と挨拶した。

小さい声の「こんにちは!」がパラパラと聞こえるくらい。

さっきまでの熱いぜ!がここにはない。まったく別の熱さが、すっと胸にこみ上げてくる。
隣にいた池田純球団社長に、あとで球団職員全員を集めてもらえないか、とお願いした。

契約書にサインを済ませ、集まった社員の前に気合いの入った中畑が出てきた。
大きく息を吸ってから、全員の胸に届くようなデカい声でこう訴えた。

「監督として初めて挨拶させてもらったけど、反応してくれた人はほとんどいません。
なんですか、この覇気のなさは! 覇気がない。目が死んでますよ。これからお互いに頑張っていかなくちゃいけない。
挨拶くらい、目と目を合わせてちゃんとできるような人間づきあいをしようじゃねえか!

そうじゃなかったら目的なんか達成できねえぞ。真剣にやろうぜ、もう1回やろうぜ」

闘魂注入ならぬ熱いぜ!注入。

2度目の「こんにちは!」の大声を、50人分の「こんにちは!」がかき消した。

ノリでやったわけじゃない。この新しい球団を先頭に立って変えていくという本気を伝えたかった。
そのためには球団職員の意識も変えなきゃいけないと、リトルキヨシがささやいた。
チームと職員の壁なんて取っ払って、みんなで熱いぜ!をやっていかなきゃならない、と。

「職員のみなさんとの挨拶が最初にやった仕事だね。DeNAがやってくるまでにも球団の身売りの話はあったし、
よどんだ空気になるのも仕方がないところはあるよ。俺が職員でもそうなっていたかもしれない。
でも新しい体制になったんだから、一緒に変わっていきましょうっていうメッセージを送りたかった。
これって監督の仕事じゃないよ。でも俺もプロだけど、みなさんだってプロ。熱を持って、覇気を持って
動いていかないと、お客さんが集まる球団になんてなれない。お通夜みたいな雰囲気じゃ絶対に、いいものはつくれないから」

中畑が吹き込んだ新風は、球団職員たちの意識を変えていくことになる。