>>964
「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
ベンチから飛び出した糸原が目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにタイガースの応援歌が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする糸原の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「コサリオ、守備練習だ、早く行くぞ」声の方に振り返った糸原は目を疑った
「か・・・金本さん?」 「なんだアゴ、居眠りでもしてたのか?」
「や・・・矢野監督??」 「なんだ糸原、かってに矢野さんを引退させやがって」
「赤星さん・・・」  糸原は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
1番:今岡 2番:赤星 3番:金本 4番:桧山 5番:アリアス 6番:片岡 7番:矢野 8番:藤本 9番:井川
暫時、唖然としていた糸原だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ!」
早川からグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する内川、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・