「リーダーシップには2種類あって、一つはコントローラー型と、もう一つはメンター型。昔ながらの監督はコントローラー型で、これは権限と恐怖で人を動かす手法なんです。一方でメンター型はあこがれと尊敬で選手のやる気を引き出す。この監督から学びたい。監督の元で日本一を目指したいと思わせて、選手が自らやる気になるあり方です。今も指導者の7〜8割はコントローラー型ですが、それでは選手が本来の力が発揮できません。監督の顔色をうかがっていては選手は萎縮してしまいます。僕はよく『監督の空気はとにかく大切です。監督の雰囲気でチームの力の発揮が変わります』と言うんですが、実際に監督の雰囲気が変わると、チームが勝ち進むケースってすごく多い。力が解放され爆発力が生まれるんです」

選手の力を引き出すコツは個々の能力を信じ、自信を持たせること。いわゆる不可能を可能にしてきた実話の映像を見せて、「自分たちもできる」と自分の可能性に気づかせていくことが有効な手段だ。また、緊張状態を解くのに効果的なのが「本気の朝礼」や「本気のじゃんけん」。何げないことを本気で楽しむことで脳のリミッターを外し、なかば強制的に力が発揮できる脳の状態、メンタル状態に持っていく。

「エラーやファインプレーで試合の流れが変わるって言うでしょ。流れっていうのはベンチの空気のことで、つまりは心の状態なんです。ファインプレーが出たときの心理を、例えばじゃんけんや『いいね!』という言葉で普段から脳に意識付けさせる。エラーで流れが悪くなるとか満塁はピンチとか、雨で流れが途切れるっていうのも脳の勝手な認識にすぎなくて、その意味付けを『いいね!』というポジティブな言葉で変えてやる。たったそれだけで気持ちの切り替えができたり、力を発揮できるようになるんです」

また、矢野監督が実践する「予祝」はいわゆるイメージシミュレーション。試合前にヒーローインタビューをしたり、優勝した前提の日記を書かせることで、事前にいい結果をイメージさせる。
「脳って面白くて、監督に予祝日記をつけさせると8割方その通りの展開になるんです。監督は普段から選手を見て最高のパフォーマンスをわかっているし、試合展開を読む力もある。『できないかも』でなく『お前はできる』という思いを共有すると、想像通りに試合が進むんです。選手の場合だと、たとえば3球目にインコースのスライダーをホームランと書いたら、その通りの結果になったり。これは先回りして成功をイメージすることで、その場面で迷いがなくなってスムーズに体が動くようになるからです」

「やってやる」ではなく「できる」と思わせることで、普段以上の実力が出せるようになるという。
選手の可能性に気付かせることと、それを実現させる具体策。“大嶋流メンタルトレーニング”が高校野球のトレンドとなる日は、すぐそこまで来ている。

言うほどヤバいこと言ってるか?