「ビッグニュースや!」
数日前、小学5年生になったばかりの男の子が夕方、大慌てで帰ってきた。マンションのインターフォンに目いっぱい顔を近づけて、父親に事件≠ェあったことを報告。エントランスの鍵を開けてもらって、自宅に戻ると、鼻の穴を掃除機の穴みたいに膨らませながら、衝撃的な場面を伝えた。

「青柳投手と会ったんや!」
その男の子は小学校から帰ると、ランドセルをそこら辺にポーンと置き、すぐに近所の公園に出かける。いつものように友達とドッジボールをしたら、ボールがあらぬ方向に行ってしまった。あわてて取りにいくと、そこに青柳がいたのだ。

男の子は小さいときからサッカーを習っていたこともあり、普段は野球をあまり見ることはない。ただし、東京五輪を熱心に見ていたことで、日本代表として金メダルに貢献した青柳のことは知っていた。

「あっ、青柳投手や!」
思わず、叫んでしまった。叫んだ後、しまったと思ったらしいが、ドッジボールを楽しんでいた小学生たちの視線が一斉に青柳に集まった。まだ10歳前後の子どもたちばかりだ。視線だけで我慢できるはずがない。

ウワーーーーッ!
青柳からすれば鬼ごっこで完全包囲されているような感覚だっただろう。みるみるうちに押し合いへし合いの状態。

「ちょっと、待って、待って!」
青柳はびっくりしながら、子どもたちの交通整理を始めたのだった。

小学3年生の女の子が自分のかばんからアニメ「名探偵コナン」の自由帳とマーカーペンを取り出し、「サイン、ください」とお願いする。それを見た男の子が、女の子に対し「いつも一緒に遊んでるやんか〜。僕もちょうだい」とノートのおすそ分けを頼み始める。

ビリッ! ビリッ!
女の子の自由帳がどんどん薄くなりながら、即席サイン会場ができた。

「はい、みんな、並んで、並んで〜」
色紙もマジックもない。手でちぎられた紙とマーカーペンだったにも関わらず、青柳はイヤな顔一つしなかった。それどころか、ペンを走らせた後、全員と握手をしたのだ。

「頑張ってください」
「応援しています」

そんな子どもたちの声に青柳は「ありがとう」「ありがとう」と笑顔。男の子は「ウチのお父さん、青柳投手はめちゃくちゃすごいっていつも言ってるねん」と得意げに話した。最後はジャングルジムの付近で子どもたちと記念撮影。サングラスも帽子もかぶっていない。ありのままの青柳はピースサインで応えた。

青柳ってええやつなんやな