もがけばもがくほど空回りし、蟻地獄を落ちるかのように深みにはまっていく――。そのストレスは次第に、目に見える形で肉体にも影響を及ぼした。もともと太らない体質だったという細江だが、過食によって太ってしまったというのだ。

「食べていないと不安を抑えられず、気づけば何かしら口にしてしまって……。また、生理が止まった時期もあったのですが、そんなことどうでもいいと思っていました。心も身体も、すべてがぐちゃぐちゃだったと思います」
ケガの影響もあり、2001年に引退。わずか5年の現役生活にピリオドを打った。通算成績は493戦14勝。この時のことを振り返り、細江は「心身ともにボロボロでしたね」とつぶやいた。

「高校3年間をかけてようやく競馬学校に入学し、3年にわたる訓練を積んでデビューして……と、競馬はいわば青春をささげた相手なんです。これだけ時間を費やしても上手くいかなかったということなので、そこには忸怩たる思いがありました。
だから、すぐには気持ちを切り替えられなかった。引退した直後は、競馬が嫌いになってしまい、中継を見ることすらつらかったです。きっと失恋と一緒ですよね。あんなに愛していたのに別れたら憎くて仕方がない、みたいな感じで(笑)」

 競馬学校に入る前に戻って、人生をやり直したい――。そう考えていた細江が競馬評論家の道を歩むことになったのは、敬愛する武豊の言葉があったからだ。

「豊さんに『せっかく競馬の世界に入ったのだから、競馬を伝える仕事をしてみたら?』と勧められたんです。聞けば、豊さんは奥さんの佐野量子さんに『純ちゃんはあなたに憧れてジョッキーになったんだから、最後まで面倒みないとだめよ』とまで言われていたのだとか(笑)。

 本当は、競馬から離れて自分をリセットするために海外留学をするつもりだったんですが、豊さんご夫妻のおかげで、今の私があります」