「殺すぞ、死ね、が当たり前になっている」中日・福敬登が“入団時”から受け続けた中傷《被害届受理、投稿者の特定へ》

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スタジアムの帰りに仲間内で居酒屋に寄り、ひいきのチームが負けたやけ酒をあおる。酔いに任せて「あんなやつ死んじまえ」という声は、その場で酒臭い息とともに消えてしまう。しかし、DMはもちろん、SNS上のコメントはなかなか消えない。だから、どうか節度を持ってくれ。至極当たり前のことを訴えているに過ぎないのだが、それがあまりにも守られていない現状に、闘うことを決意したのだ。

「僕が行動を起こすことで、少しでも抑止力になれば」

 といっても素顔の福は、こうした心ないコメントに「かかってこいや!」と立ち向かえるような鋼のメンタルの持ち主ではない。「そういう人たちのように、受け流したり、受け止めたりできればいいんですが、僕はそんなに強くない。でも泣き寝入りもしたくなかった」と打ち明けた。葛藤の末、法的手段に訴えたのだ。

「こうすることで、さらに(ネット上で)言われるという覚悟はあります。でも、言葉には責任が伴うんじゃないでしょうか。人は不幸に群がるものだなと感じますし、性善説では生きていけないことも承知しています。でもクリーンにはならないにしても、クリーンにする努力はしたい。変わるにしろ、変わらなかったにしろ、賛同者もいる。僕が行動を起こすことで、少しでも抑止力になればと思っているんです」

刑事にしろ、民事にしろ、ものすごい労力が必要になる。そのプロセスでさらに嫌な思いをすることもある。しかし、放置は何も生み出さないと、勇気を振り絞った。

 そもそも、福が初めて中傷にさらされたのは、プロでまだ1球も投げていない入団時までさかのぼる。中日球団から提示された背番号は34。それが、野球殿堂入りが確実視される山本昌広(山本昌)さんの背番号だとは知っていたが「お断りします」などと言えるはずがなかった。

「断っていれば、それはそれで言われたと思います。そんな弱気なことでプロの世界を生きていけるのかとも考えましたし。そのことをマサさんがどう思ってらっしゃるかも(当時の)自分には確かめることもできませんし。でも賛否でいえば、否が圧倒的に多かった。入った時から歓迎されてないって感じましたから」

“有名税”という幻想

 出された番号を受け取っただけで、自分から求めたわけでも複数の候補から選んだわけでもない。しかし、非難にさらされたのはなぜか自分。書き込む側に細かな事情は目に入らず、ドラフト4位のルーキーが栄光の背番号をつけるという事実だけで容赦なくジャッジされた。

「書いたのは1人でも、そこに3人が『いいね』をつけたら、書かれた側にとっては4人分の重みがあるんです。声なきマジョリティーより、マイノリティーが書き込んだ方が大きくなりますから」