立浪さんの気遣いは引退した今も続いている。例えば、こんなことがあった。今シーズン前、一緒に海外でゴルフをする機会があった。食べ物や飲み物をのせたカートがゴルフ場を周回していたのだけれど、そこでホットドッグを買って食べた。僕はここで驚くべき光景を見たのである。

 一緒にプレーで回っていた人がいて、彼もホットドッグを買った。立浪さんはそれを販売員から受け取ったあとに、ケチャップを手に取った。

 プラスティック容器に入ったケチャップを使う時、ピュッと押すと最初に透明な汁のようなものが出てくることがある。立浪さんは、一瞬ピュッと自分で紙ナプキンの上に汁を出したうえで、ケチャップを適量つけて、手渡した。

 立浪さんのことだから、その相手がどれくらいの量のケチャップが好みで、マスタードは好きなのか嫌いなのか。それも日頃の洞察から、すべて計算していたはずだ。その証拠に、受け渡された方も「ありがとう」と言って美味しそうにホットドッグを頬張った。

 いったいどれくらいの人に、これほどまでの気配りができるだろうか。しかも、入団1年目でゴールデングラブ賞を受賞したほどのスタープレーヤーだった人なのだ。

 そしてこうした繊細さは、間違いなく現役時代のプレーでも発揮されていたと僕は思っている。守っていて、サードランナーコーチがおかしな動きをしていたりすると、すぐに気づいたりできる。次に何が起きるのかを、常に想像しながら、常に察知しながらプレーするのだ。それがとんでもないレベルなのは、普段から常に周囲を見回し、気配り目配りで生活を送っているからに他ならないと思った。すごい人は、やっぱり普段からすごいのである。

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