すっかり満足した男であったが
ふと我に帰ると自分がとんでもない事をしてしまったのに気づいた。
善意で泊めてくれた人の家で盗み食いした揚げ句に中身を食べつくすなど言い逃れ出来る事ではない。
男は寝床に戻ると、どうしよう、どうしようと朝まで悶々とし続けた。
答えも出ぬままやがて夜が明け、娘が朝食の準備が出来たと呼びに来た。
男はびくびくしながら食卓に赴いた。
老人も娘も何も気づいてないようだ。
まるでこれから死刑宣告でも受けるかのような心持ちで男がじっとしていると、老人が娘に言った。
「娘や、おまえは実に感心な奴だ。
 水屋に置いておいたワシの痰壷、夜中のうちに奇麗に片づけてくれたのだな」