沢木耕太郎のノンフィクションの輪島功一の奴は輪島が格好良すぎて脳がバグるわ

「このあいだも、ある人にこう言われたよ。輪島、引退しろ、
 チャンピオンのまま引退するのと負けてから引退するのとでは雲泥の差だ。
 ボクシングをやめてからの人生が違ってくるぞ、って。
 みじめに負けてからやめたりすると、今までの栄光がすべて消えてしまうぞ、功績がパーになってしまうぞ、って。
 俺は考えたね。何てこいつはつまらないことを言う奴だ。
 もしも俺に何らかの功績というものがあったとして、そいつが何で今度負けたら消えてしまうんだ。
 功績というのはいつまでも残るから功績というんじゃないか。
 たとえどんな惨めな敗北を喫したってなくならないのが功績じゃないか。
 負けて帳消しになるようないい加減な功績なんか、こっちから願い下げだ。

 俺はやめないよ。チャンピオンのまま引退するというのは確かに格好よく映る。
 でも、ほんとはちっとも格好よくないのさ。
 なぜ引退する?負けると思うからじゃないか、負けることを恐れるからじゃないか、臆病だからじゃないか。
 身体が決定的に壊れてもいないのに引退するのは卑怯なんだ。
 格好を気にする奴は臆病なんだ。
 まだ闘える。だったらたとえ負けても闘うべきじゃないか、そうだろ?

 俺が引退したら、次のチャンピオンは『あいつは輪島が引退したからチャンピオンになった』
 と言われ続けなければならない。
 負けてベルトをくれてやるのが、新しい男への礼儀ってもんさ」