5年前の晩秋のこと。携帯電話が鳴った。栗山からだった。少し嫌な予感がした。当時の所沢の秋は毎年のようにFA宣言選手を取材するのが常だった。背番号「1」を背負い、当時主将も務めていた栗山だが、球界屈指の巧打者だ。それだけに…。恐る恐る電話をとった。

 快活で滑舌のいい、いつもの口調でこう切り出された。「宣言します。プレーしたい球団があるんです」。相づちも打てない記者に続ける。「どこか聞かないんですか」。そう促され、ようやく聞くと笑いながら即答された。「西武ライオンズに決まってるでしょ。他にどこがあるんですか」

 当時球団で宣言残留は極めて珍しいことだったが、その後同じ道を歩む選手が増えた。新たな流れをつくり、グラウンドでは快音を奏で続けた。高い技術に加え、たっぷりのちゃめっ気と誠実さ、チーム愛が同居する男が成し遂げた快挙だった。