この海原ごしに呼びかけて船に警告してやる声がいる。その声をつくってやろう。
これまでにあったどんな時間、どんな霧にも似合ったそんな音をつくってやろう。
たとえば夜ふけてある、君のそばのからっぽのベッド、
訪うて人の誰もいない家、また葉のちってしまった晩秋の木々に似合った、
そんな音をつくってやろう
泣きながら南方へ去る鳥の声、
11月の風やさみしい浜辺に寄せる波に似た音、
そんな音をつくってやろう。
それはあまりにも孤独な音なので、
誰もそれを聞きもらすはずはなく、
それを耳にしては誰もがひそかに忍び泣きをし、
遠くの町で聞けばいっそう我が家があたたかくなつかしく思われる
そんな音をつくってやろう。
おれは我と我が身をひとつの音、ひとつの機械としてやろう。
そうすれば、それを人は霧笛と呼び、
それを聞く人はみな永遠というものの悲しみと生きることのはかなさを知るだろう。