朝日社説

(社説)日野自動車 もの言えぬ体質改めよ

2022/8/12 5:00

 製品開発の土壇場で、役員がもっと性能を上げろと指示する。管理職は、自社の技術力や日程を無視して「達成可能」と安請け合いし、現場に押しつける。放置された担当者は、性能試験で計器をいじり、つじつまを合わせる――。

 トラック大手の日野自動車の特別調査委員会が報告書で描き出した不正の姿だ。上にものを言えない企業体質が、燃費や排ガスの環境性能を偽るという社会への背信を生んでいたことになる。親会社のトヨタ自動車を含め、企業統治のあり方を見直さなければならない。

 不正は、国土交通省の「型式指定」に向けた性能試験で起きた。社外の弁護士らによる特別調査委が先週、報告書を公表し、遅くとも03年から不正があったと認定した。

 報告書によると、開発と性能試験を担当する部署が他部署に黙って不正をしていた。減税対象になる燃費基準の達成を、役員が強く指示したのがきっかけだった。最初の不正でかさ上げされた性能を前提に、その後の開発も進んだため、型式指定のたびに不正を繰り返した。

 一方で、16年の国交省の一斉調査では「不適切な取り扱いはなかった」とうその回答をしていた。極めて悪質である。

 不正の原因には、上意下達の気風が強すぎてパワハラ体質があることや、自社の能力について経営陣と現場で認識が断絶していることが挙げられた。不正に直接関与していなくても、そうした企業体質を放置してきた歴代の経営陣の責任は重い。