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熊本の繁華街、下通りの雑居ビルにある小さなバー。甲子園のダグアウトを模したカウンターの正面には、
あの決勝を戦った熊本工と松山商のユニフォームが並び、その上に「犠飛」と書かれた色紙が鎮座する。

店の名は『たっちあっぷ』。オーナーの星子は'96年決勝戦10回裏サヨナラの場面で松山商・矢野勝嗣による
“奇跡のバックホーム”で刺された熊本工の「8番サード」。

野球に飽きた……その言葉は嘘か本心か。熊本に戻ると野球を振り払うように昼は現場、夜は飲食店で働いた。
だが、その先々で『お前、あの時のアウトになったランナーだろう』という声は聞こえてくる。
どこへ行っても、「熊本の夏の初優勝にあと数センチまで近づいた男」という事実から逃れられなかった。

だが、悪いことばかりではなかった。24歳で独立すると、名刺がなくとも相手が自分を知っていることで商売も軌道に乗り、
バーから居酒屋、唐揚げ屋にキャバクラと20代後半で10軒以上の店を出した。