>>320
ことしのドラフトの注目度NO1。メジャー入りが噂されたなか、日本球界に残留を決めた花巻東・菊池雄星投手だ。MAX155キロのストレートとスライダー、ツーシームを投げ込み、20年に一人の逸材とさえ言われる本格派左腕である。

 3月22日のセンバツ大会開幕を迎えた甲子園練習でのこと。その逸材な人間性がどんな選手かを見に行ったところ。彼が次々に、日常生活の重要性を語ってくれ、どんどん引き込まれていったのだ。

 なかでも、感銘を受けたのは入学時からやり続けているというトイレ掃除である。トイレ掃除といっても、素手で便器を触る過酷な作業だ。

掃除というより、修業に近いといった方がいいかもしれない。大会中、花巻東の指揮を執る佐々木洋監督に、なぜ、トイレ掃除をさせるのか聞いくと、こんな言葉が返ってきた。

 「ピッチャーのマウンドというのは楽しいことばかりじゃありません。トイレ掃除など、嫌なことから逃げないでやることがマウンド上の態度につながってくる。また、ピッチャーは注目されるポジションですので、影の部分も感じてもらえたら」

トイレ掃除を推奨するものと、それを実践するものとが得られるものが必ず一致するというわけではないが、一つの体験として、選手に生まれるものがある。

普段のトレーニングや投げ込み、ウェイトトレーニング、実戦形式のピッチングが選手を技術的に成長させるように、トイレ掃除は選手を精神的に成長させる。 

佐々木監督はこうも言っていた。「もし、今大会でのピッチングというものが、トイレ掃除などの経験が生かされているのだとしたら、指導者として、それは嬉しいことです」。

 体験した者にしか分からない、プラスの力が働いていることは紛れもない事実だろう。過去に、トイレ掃除を実践し、プロ入りを果たした選手を取材したことがあるが、彼らもそれぞれ相違なる想いを口にしていた。

 「何事も普通にやれるようになった」(ヤクルト・山田 弘喜)、
「泥臭くやれる。気持ちにマイナス面がなくなった」(ヤクルト・赤川 克紀)

 こうした発想を見逃すことはできない。

 ただ、僕自身が思うのは、この20年に一人の逸材といわれる菊池雄星が、ここに取り組み、プロの世界に飛び込もうとしていることに大きな意味を感じている。

一時はメジャーの入団も考えたという逸材が、技術向上だけではなく、トイレ掃除にまでおよび、その能力を高めようとしたことに意味があるのではないか、と。
https://www.hb-nippon.com/column/95-ujihara/3638-clmn2009-01-date20091028no07u


花巻東の悪口はやめろ