金本監督には、まさに地獄から天国だった。明大・高山を巡るヤクルトとの一騎打ち。開封と同時に真中監督が雄たけびを上げ、ガッツポーズを繰り返した。これを見た金本監督は、開封せぬまま苦笑いで肩を落とした。真中監督がインタビューに応じる傍ら、スカウト陣の待つ席に戻った。

だが、ここから異例の事態に発展する。NPB担当者が「確認のミスがありました」とアナウンス。よく見れば、金本監督が手にする右半分には「交渉権確定」の印字があった。真中監督が札の左半分にある「ドラフトマーク」を見て当たりだと勘違いしていた。

「あれだけ真横で喜ばれたらねえ。見ても仕方ないだろうと、見なかったんですけど。まさにビデオ判定の逆転ホームランでしたね。連盟の方から言われて。それまで全然、気付かなかったです。本当は自分が開いて、見て、よしというのをやりたかったんですけど、真中監督はね。ダメです…(笑い)」

高山は東京6大学野球の通算安打記録をつくった“完成品”とみられがちだが、金本監督はあくまで将来性ある素材と見ていた。「今すぐ使えるとか、そういう判断ではなしに。将来的に3、4番を打てる可能性がある選手ということで選びました。練習はきついですよ。しっかり体をつくってくるように。それをまず伝えます」。

高山との縁は、抽選箱の中で始まっていた。金本監督は左手で1度、手前の封筒をつかんだ。だが、少し考えた後、奥のものをつかみ直した。第六感が働いたのか…。競合を恐れず、素材重視で指名すると公言した前日、自らのクジ運を自虐的にこう話していた。「くじ運は弱い。本当に当たらん。まあ、当たらん。飛び賞なんかも必ず飛んでる(笑い)」。

だが、とてつもない強運ぶり…いや、運というより自らの意志でつかみ取った。大勝負ほど強さを発揮する。アニキ、恐るべし-。就任初仕事で他球団に強烈なインパクトを与えた。

★歴史的勘違い…真中監督「あのガッツポーズを返してください」

会見場に訪れた真中監督は、少し申し訳なさそうだった。「くじに、ドラフトのマークがあったのでOKだと思った。全く気付きませんでした」。歴史的珍事となった勘違いについて、ゆっくりと説明した。「あのガッツポーズを返してください」と、ため息をついた。

昨季に続き2度目のドラフト会議。左手でくじを引き、中身を開封した。右手にくじを持ち替え、両手で大きくガッツポーズを決めた。真中監督の視界に入ったのは、くじの左側に記してあるドラフトのマーク。「事務局の人から『これは真中監督のくじですか? 外れのものです』と言われたけど、よく分からなかった」。「交渉権確定」の文字は書かれていなかった。
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