近所の小さな食堂を一人で切り盛りする月岡さんは、とても明るく、綺麗な人だ。

俺のような貧乏学生が店に来ると、「たーんと食べんね!」と頼んでもいないのに無理やり大盛りにしてご飯を出してくれるので、ありがたいが毎度食べるのに難儀する。
なんでも月岡さんは、俺が小学校に上がる頃まではアイドルをしていたらしい。

「──なんで月岡さんはアイドルを辞めちゃったの?」
ある日、ランチの波が終わり鼻唄混じりに洗い物をしている月岡さんの背に何気なく言葉を投げた。
彼女がまだ充分芸能人としても通用するほど綺麗な人だったので口をついた言葉だったが、今にしてみれば本当に無神経な質問だったと思う。

しばしの沈黙の後、言葉が返る。
「──色々あったとよ。色々。そいで、疲れちゃったばい」

初めて聴く、月岡さんの悲しそうな声だった。