◆子供に乳房を舐めさせ……

母親はそんな息子たちの異変に多少なりとも気がついていたはずだったが、手を差し伸べることはなかった。いや、それどころか、後に開かれた裁判では、そんな子供たちに性的虐待をしていたという指摘がなされた。具体的には次のような行為である。

・母親が子供に乳房を舐めさせた。
・母親が子供の自慰を手伝ったり、ポルノ雑誌を買い与えたりした。
・母親が子供にディープキスをした。

また、普段の生活では子供たちをネグレクト下に置いていた。母親は掃除洗濯だけでなく、子供に食事をつくることを怠っていたのだ。

そのため、速人はいつも腹を空かせている状態で、家にあったホットケーキミックスの粉を水で溶かして、生のまま舐めて空腹を満たすなどしていたらしい。

裁判後の報道では、こうしたことがクローズアップされ、母親に対する批判が集まった。だが、私がインタビューした祖父は、母親がこうした行動に及んだことに特に驚きがないと言い切った。

祖父は言う。
「俺が見るに、彼女の方が障害の症状が重かった。家の中は足の踏み場もないほどのゴミ屋敷だし、何を言ってもちゃんとした受け答えができない。食事だってまともにつくれなかった。雑草だって生え放題。やろうとしてもできないんだよ。
本当は父親が何とかしてやればよかったんだけど、忙しかったから無理だったみたいだ。魚関係の仕事だったから夜暗いうちに仕事へ行って、帰ってくるのは日が暮れてから。それで子供たちが放ったらかしになっていたんだ」

個人差はあるにせよ、ADHDの人が、家の片づけや日々の料理が苦手ということは珍しくない。性的虐待についても、息子たちとの適切な距離感がつかめず、求められることをしていたという面もあるかもしれない。
何にせよ、そこに加えて家庭の様々な問題が絡んだことによって、家庭には大きなゆがみが生じていた。
父親はそんな妻子への関心をほとんど持っていなかった。外にフィリピン人の愛人をつくって、ろくに帰ってこなかったのである。祖父の話によれば、枕崎市あたりのフィリピンパブで出会った女性ではないかとのことだった。