「じっはね、今、独り身なんだ」
 えっ、と靖子は声を漏らした。目を見張っていた。
「女房がガンにかかってね。膵臓ガンだ。手術をしたんだけど、手遅れだった。それで、去年の夏、息を引き取った。若かったから、進行が早かった。あっという間だったよ」

「病気のこと、いつわかったの?」

 工藤は首を傾げた。「一昨年の暮れ……かな」
「じゃあ、まだあたしが『まりあん』にいた頃じゃない。工藤さん、お店に来てくれてたよね」

 工藤は苦笑し、肩を揺すった。
「不謹慎な話だよな。女房が生きるか死ぬかって時に、亭主が飲みに行ってちゃあいけないよな」