力道山について

アントニオ猪木
飼い犬を番犬として教育する際の実験台にされていた。機嫌が悪いと殴られ、試合内容が悪いと殴られた。何度も殴られた。蹴られた。灰皿を割れるほどぶつけられた。
汽車で移動するときに疲れていてウトウトして眠ってしまうと火のついた葉巻を腕に押しつけられた。何故殴られたのか、理由がわからないことも多かった。いや、ほとんどそうだったかもしれない。

ちゃんと名前を呼んで貰ったことなんてほとんどなく、大抵は「アゴ」。「おいアゴ」である。気に入らないと「乞食野郎」とか「この移民のガキ、ブラジルへ追っ帰すぞ」と怒鳴られた。
ヤクザと飲んでいる時にポンと投げられた一升瓶の栓を抜き、上を向いてぐるぐる回しながら一気飲みをしなければならない。
飲み終わるまでは息継ぎが出来なかった。力道山はごつい灰皿を掴んで「失敗するとぶん殴るぞ」と脅す。

巡業先の旅館で師匠の力道山に靴を履かせる度に、「なんだその履かせ方は、この移民野郎!」と怒鳴られると同時に、持っていた靴ベラをひったくられ、頬を思いきり打たれた。
旅館には力道山見たさに大勢のファンが詰め掛けていた。人の目が気になる年頃に、大勢の人達が見ている前で恥をかかされた悔しさだけは忘れられない。

俺は力道山先生みたいに弱い者イジメだけはすまいと思った。