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「お待たせしました。牛丼並と生卵でございます」

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1それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 03:56:47.35ID:EI+PTf3gr
凡庸だな。
向かいで期間限定の丼を頬張っている大学生の目が、そう語っているように見えた。
彼の頼んだものに比べたら凡庸なのだろう。だが、このリストランテでは凡庸さこそが最も尊重される。
いつ食らっても変わらない味。半世紀に渡り日本の男たちを支えてきたこの味を「凡庸」の一言で片付けられると、なるほど正に本質・本懐であるという得心もあれば、一体お前に何が判るという意地も湧く。

ここまで考えたところで、口元が緩んでしまった。
私も歳を食った。この味とともに、思えば遠くへ来たものだ。きっと彼も十年、二十年と歳を重ねていくうちに、凡庸の価値を知ることになるだろう。それで、いいのだ。

私は、洗練された所作で箸を取り、先を丼の中心に向かわせた。
2それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 03:58:33.97ID:EI+PTf3gr
まずは、熱を下げる。これが出来ない手合いが案外多いのだ。
上に載る具材と、それを支える白飯とに温度差がある。その幅は店舗によるが、九分九厘、白飯の方が高温である。
そのため、熱を均等にせねばならない。中心に窪みを作りながら解ぐしていく。

店員の目がこちらに向く。業界ではこの動作を「釜開け」と呼んでいる。湯気が立つからだ。
その後、私は紅生姜を2回、窪みに収めた。それから間を置かずして、溶いた生卵を流し込む。
この紅生姜と生卵により、丼は中心部から熱が冷めていく。具材が縁に寄っているため、表面からも放熱していく。

ホウ、とどこからか嘆息が聞こえた。向かいの若者が目を丸くしていたことにも遅れて気が付いた。
2022/10/15(土) 03:58:40.29ID:IuM81cz60
生卵も注文するなら牛丼はつゆ抜きかつゆ少なめな
4それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 04:00:36.98ID:ZhIsfHvD0
読んでるぞ
5それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 04:02:06.49ID:EI+PTf3gr
大将、戴くよ。

私は適温に育った丼に食らいつく。ガツガツと、当時の我が国の勢いのように。
箸と丼が衝突し、小気味のいい音を奏でた。飛び散った米粒は、さながら音符のようである。
口を大胆に開けたまま咀嚼する。食らっているということを再認識するためだ。咀嚼に疲れれば茶で豪快に流し込む。周りの人間が何度か私に目を遣ったが、皆怪訝であった。何故かは分からない。

向かいの若者が席を立った。私は心の中で勝利を宣言した。だが、何に対する勝利なのだろう。勘定!と高らかに叫び、頭の靄を晴らす。
6それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 04:04:39.83ID:TdPQtIR3a
ただのクチャラーじゃねーか
7それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 04:08:19.41ID:EI+PTf3gr
店を出ると、先ほどの若者と出くわした。どうやら待ち伏せをしていたらしかった。
私が何か言おうとしたタイミングで「あの、」と遮られてしまった。

「さっきの……感動しました。なんて言えばいいかわからないけど、とにかく……なんか、牛丼ってあんなにウマそうだったっけって……」

てっきり、何か文句でも言われるのだろうと思っていたので、面を食らってしまった。
8それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 04:08:29.37ID:DNTMYlpjM
そんなに牛丼が好きなんか
9それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 04:13:13.20ID:EI+PTf3gr
私は数瞬ののち、若者の方へ近づき、そのまま過ぎ去ろうとした。特に返す言葉も無い上、期間限定の色物に靡いているようでは見込みもないからだ。

「オレもッ!!」

寒空のもと、灰色の空気が振動した。

「オレも……なれますか。アンタみたいに」

歩を緩めた。が、すぐにもとの速度で歩き出す。
それが答えだった。がっつくしかないんだ。保証なんてどこにもない。前を歩く。先があると信じて進め。若者よ。
10それでも動く名無し
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2022/10/15(土) 04:15:41.08ID:EI+PTf3gr
>>8
最近は食べていません
11それでも動く名無し
垢版 |
2022/10/15(土) 04:21:27.25ID:6Y4TlckWp
創作?
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