神戸市須磨区で1997年、小学生5人が襲われ、2人が殺害された連続児童殺傷事件で、14歳で逮捕され、少年審判を受けた「少年A」の全ての事件記録を、神戸家裁が廃棄していたことが分かった。裁判の判決書に当たる少年審判の処分決定書や捜査書類、精神鑑定書など、非公開の審議過程を検証できる文書一式が消失した。最高裁による内規は、史料的価値が高い記録の事実上の永久保存を義務づけている。神戸家裁は「運用は適切ではなかった」とする一方、経緯や廃棄時期は「不明」としている。

【図解】「事件記録」破棄の流れ

 関係者によると、神戸連続児童殺傷事件に関して廃棄されたのは、処分決定書▽兵庫県警、神戸地検が作成した供述調書や実況見分調書▽神戸大学の中井久夫名誉教授(今年8月に死去)らが書いた精神鑑定書▽異例となる4人が任命された家裁調査官による少年Aの報告書-など。

 裁判記録を巡っては、2018年に当時の上川陽子法相がオウム真理教を巡る一連の事件の刑事裁判記録を原則永久保存すると表明した一方、19年には憲法判断を争った歴史的な民事裁判の記録が多数廃棄されていることが判明した。少年事件でも重要な記録の廃棄が分かり、改めて司法文書の保存のあり方が問われる。

 一般的な少年事件の捜査書類や審判記録は、少年が26歳に達するまでの保存が定められている。しかし、最高裁が作った裁判所の内規で、史料や参考資料となるべきものは「保存期間満了の後も保存しなければならない」とし、26歳以降の「特別保存(永久保存)」を命じている。

 さらに、この内規の具体的運用を定めた最高裁通達(1992年2月7日付)は、保存期間満了後も保存する対象例として、世相を反映した事件で史料的価値の高いもの▽全国的に社会の耳目を集めた事件▽少年非行等に関する調査研究の重要な参考資料になる事件-などを挙げる。

 これらとは別に、成育歴などを調べた少年調査記録も、保存について同様の内規や通達がある。

 一方、成人の刑事裁判記録は、記録の種類や刑の重さなどによって保管期間が法律で定められ、判決文の保管期間は100年から3年までと決まっている。