こだわりの強いアニメ監督には「声優の演技が嫌い」という人がいます。

田中真弓 私も現場によっては言われることがあります。
でもそれは「型にはまっていて、個性や特色が見られない、類型的な、説明的な芝居はするなよ」と釘を刺されたのだと思いました。
声優って、俳優の中の仕事のひとつなんですよ。たまたま声だけで出演してる俳優。俳優と全く別個に声優という職業があると思ってる人が多いんですが。

その中でなんで「アニメ声優っぽくするなよ」と言われるかというと、俳優の台本って何ヵ月も読み込む時間や稽古があって自分が演じるまでに熟成が出来るんです。
だから自分が脚本のキャラクターより先を行くような演技がしやすいんです。その演技が声優にも求められてる。だけど声優の仕事って3~4時間程度で録り終える現場が多い。
仕上げる作業がなくてその場でポンポン正解を当てはめる感じなんです。
そうすると、より記号的な外れのない演技のほうが置きに行きやすいんですよ。過剰なリアクションや笑い方、誇張した喋りのほうが、演者も監督もお互い納得しやすいんです。
「俳優として仕上げてくるって作業をしてきてくれよ」ってことなんですよ。声優らしくない演技にしてほしいってのは。

でもね、初めて声優じゃない生っぽい芝居してくれって言われると、若い子は勘違いして『薄い演技』をしちゃうんですよ。一番よくないパターンなんだけど、何にも中身がない薄い演技が正解だとしちゃうから、手応えすらないって仕事になっちゃうんですね。
そこは勘違いするなよと言いたいですね。