彡(ﾟ)(ﾟ)「今日は…やきうが…」

**それでも動く名無し** · 2022/11/08(火) 07:34:22.97

無い、そんな日の練習帰りにあいつは打ち明けてきた。
「これ、タクムさんだけに言うんすけど…」
一番聞きたくなかった言葉を。
俺の気持ちに1ミリでも気付いてくれてたら。
こんな思いをすることも無かったのに。
「俺、マキのこと好きなんす」

**それでも動く名無し** · 2022/11/08(火) 07:34:35.51

マキのことが気になりだしたのは1年ほど前だそうだ。
「会える時ほんまに嬉しくて、好きなんやなって…」
同性に恋をするのは初めてらしい。
その相手は俺であって欲しかった。
「ほんまのこと伝えたいけど、やっぱり怖くて…」
ずっと伝えないで、男もいけるという気持ちだけ残してあとは忘れて欲しいよ。
「マキ、どう思うんすかね、俺が本当のこと言ったら」
でも『仲のいい何でも話せる先輩』が出さなきゃいけない言葉は、俺にとって残酷だ。
「そんなことで嫌うようなやつじゃないだろ、二人ほんとに仲良いし。自分のしたいようにするのが一番じゃない？」

**それでも動く名無し** · 2022/11/08(火) 07:35:06.34

今日の移動のバスの中も、俺達は隣同士だった。
もう2年くらい、だいたいいつも一緒だ。
一緒に代表に選ばれたのは当然嬉しい。
マイペースなこいつは隣でスヤスヤと寝ている。
改めて見るたびに本当に愛おしい顔だと思う。
男らしいかっこよさ、かつ繊細な可愛さも持っている顔だ。
恵まれた体格にダイナミックなプレー。
憧れは、出会ってからそう長く経たないうちに恋に変わっていた。
「むにゃ…ん、もう着いた？タクムさん」

**それでも動く名無し** · 2022/11/08(火) 07:35:42.25

「タクムさん、俺ら、ついに来ましたね」
夢の舞台の初陣に浮かれているようだ。
「ばっちり活躍しましょ」
俺の肩をポンポンと叩いてくる。
こういう人懐っこいところが好きだ。
でもその後そいつはほとんどマキと一緒に話していた。
普段俺とたくさん話してるだろ、なんて自分に言い聞かせてもあまり効かない。
ベンチに座ってると、俺の右隣にマキが座った。
そしてそのさらに隣にあいつが座る。
狭いベンチだ、1つ隣と2つ隣の会話なんて全て聞こえてしまう。
逃げ出したい、耳を塞ぎたい。
自分の小ささに嫌気がさした。

**それでも動く名無し** · 2022/11/08(火) 07:36:10.04

今日のやることが全て終わって、俺達は同じホテルに泊まった。
晩飯の後、そいつが俺の部屋に来た。
「タクムさん、俺、今日いきます。告白します」
緊張でもう顔が赤くなっている、かわいい。
今日一日たくさん話して、いけると思ったのだろうか。
止められるなら今が最後のチャンスなんだろう。
傷つくところも、俺以外と幸せになるところも、見たくないよ。
「おう…、頑張れ」
先に彼のマキへの思いを聞いてしまった時点で、俺は負けているんだ。
負けた俺は、今までと変わらない俺を演じるしかない。
「だめだったら泣いて戻ってこい、慰めてやるぞ」

**それでも動く名無し** · 2022/11/08(火) 07:36:30.32

あいつが出ていって、部屋に一人になった俺は寝転んだ。
特に何をする気も起きなかった。
テレビをつけて少し見て消し、スマホを開いて少し見て閉じ、を繰り返す。
ふと気になって今日の写真をSNSで調べてみた。
ああ、あいつら二人で写ってる写真がたくさん投稿されてるなあ。
お似合い、そんな言葉が浮かんだ。
どうなったかな。
時計を見る。
もう1時間か。
その時間が答えだと思った。
仰向けになると、目の横を雫が伝うのを感じた。
『タクムさん！』『タクムさん』『タクムさーん』
あいつが俺を呼ぶ声が頭の中にぐるぐる回る。
そのまま枕に顔を伏せて、少しだけ嗚咽を漏らした。

**それでも動く名無し** · 2022/11/08(火) 07:36:46.29

～～～～～～～～～～♪
https://www.youtube.com/watch?v=iqGHxcTPRfI
眠りにつくか、つかないか　シーツの中の瞬間はいつも
あなたのこと　考えてて
夢は夢で目が覚めれば　酷く悲しいものです
花火は今日もあがらない

胸ん中で何度も誓ってきた言葉が　うわっと飛んでく
1ミリだって　忘れないと
モヤがかかった影のある形ないものに全て
預けることはできない

三角の目をした　羽ある天使が
恋の知らせを聞いて
右腕にとまって　目配せをして
疲れてるんならやめれば

夏の星座にぶら下がって　上から花火を見下ろして
こんなに好きなんです　仕方ないんです
夏の星座にぶら下がって　上から花火を見下ろして
涙を落として　火を消した
～～～～～aiko『花火』