ホンイチに悲しい過去

ある日、母が「ベッドを2つ買ったから」と言ってきた。ベッドはもうすでに足りてて、店に電話したら「そんなもんは買ってない」と。そしたら翌日届いたのはパソコン2台だった。なんかよくわかんないけど「おかしいな」って初めて感じたのはその時だった。

一抹の不安はあったが、その時はそれほど気にしなかった。父はやがて肝硬変となり、病院に入院する生活を余儀なくされた。兄は仕事に行くようになり、家には母一人となる。そして、ついに事件が起こる。

僕が当時麻雀店で働いている最中に、おばあちゃんから電話がかかってきて、「今日16時に母が私の家に来る予定だったんだけど何回かけても電話にも出ないし、全く反応がない。どうかしたの?」って。時計見たら19時。胸騒ぎがして急いで家に戻ったら、浴室からシャワーの音がした。
まさかと思って浴室のドアを開けたら、裸になった母が風呂の桶に座って冷たいシャワーをずっと浴びていた。その時に母が「ここから出れなくなっちゃた、なんでこうなっちゃったんだろうな」って呟いた瞬間、泣いてしまったんだよね。ああ、母は今とんでもない状態なんだなって。

その後病院に連れていくと、母は「若年性認知症」という診断を下された。認知症は、一般的には高齢者に多い病気だが、65歳未満で発症した場合、「若年性認知症」とされる。すると、次第に兄はうつ病になり、父も病気が悪化。あっという間に家族が崩壊していった。