どんな選手を育てたいか、と聞くと、「精神的にタフな選手。どんな状況でも、『僕に任せてください』と自信を持って言える選手」と即答した。

「そのためには、いろんな経験の中で『こういう状況ではこういう気持ちの持ち方をしなきゃいけない』と根気づよく、相互通行で会話をしていくしかないですね。これは一朝一夕にはできないこと。やっぱり20年近く負け続けているチームですから、いわゆる負け慣れているところがある。20年分がずっと、伝統的に刷り込まれているわけですから、それを全部払拭することは簡単ではありません。根気強くやるしかないんです」

 メジャーからオリックスに復帰した2010年、「あー、弱いチームになっちゃったな」と感じたと言う。

「今回ファームに監督として来た時にも、練習で、ボール一つに対してみんなが意識を集中させていないところがまず気になった。ノックをやっていても、(自分以外の)その1球がどうなったって関係ない。声が出ない。誰かの送球がそれても、『おい! それてるで!』という一言が出ずに、『はい、オッケー』。そんなのオッケーなわけがないのに、オッケーで終わっちゃう。そういうところからです。

 本来野球は、周りが見えていないと何もできないんです。自分が置かれている立場、周りの誰がどこでどう動いているか、ゲーム全体がどうなっているか。そんなことが全部わかっていないと野球はできない。周りを見ていないと声は出せないから、そういう意味も含めて声を出させますし、いろんなことを言い続けます。何人かのスーパースターは、勝手にやっていてもそこにみんなが合わせればオッケーかもしれない。でもここにはそういう選手はいないですからね」

 語るにつれて、強かった頃のオリックスを取り戻したいという熱意があふれてくる。その礎となる選手を1人でも多く送り出すために、新米監督は唯一無二の経験を伝え続ける。