『コードギアス』谷口悟朗監督が警鐘を鳴らす「アニメ業界の幼稚性はここまできた」

谷口 なんというか、元々、実写の業界にいて、それでアニメ業界に入ったら「アニメ業界って予想以上に幼稚だな」と思ったんです。

―幼稚、ですか。

谷口 こんなこともNGになるんだっていう。

―ああー。確かに、細かいNGは実写よりもずっと多いですね。

谷口 例えば、実写業界だったら現場に来た若い女優さんとかアイドルに「これから生き残っていくためにどういう努力が必要だと思う?」という話は当たり前にするんです。でも声優の卵にそんな話をしたら、事務所の人が真っ青になって飛んできますから。

じゃあ声優の卵の人たちが何も考えてないかっていったら、そんなことはないんですよ。それぞれ将来について考えているんです。…もうね、今の声優業界はダメですよ。

―ダメですか。

谷口 補足すると、声優の定義が悪いほうに変わりつつあるという感じですかね。例えば、現場で新人の声優が困っていたらベテランの人はごく普通にアドバイスするじゃないですか。そういうことが以前は当たり前にあったんですよ。しかし、ここ数年は人によっては事務所のマネージャーがすっ飛んできて「そんなこと言わないでくれ。うちはアイドル事務所なんだから」と言うんです。

―そんなことを言っちゃうんですね…。

谷口 つまり、それをやられると新人のコが落ち込んだりする。でも事務所からすると、この後にラジオがあったりイベントがあったりするから困るわけですよ。常にテンションが高くないと困る。ただ、そんなことを言われたらベテランの人は新人にアドバイスなんてしなくなりますよね。スタッフだってバカバカしくてやってられない。

―それはそうですよね。よかれと思って言っているだけですから、面倒くさい思いをしてまでやる義理はないというか。

谷口 芝居の勉強は何もしないまま30歳を過ぎて放り出される。そんな声優が使い物になるわけないんです。そのコたちがあまりにも可哀想です。もちろん、全ての事務所がそうではないですよ。しっかりしているところだっていっぱいある。でも、一部の事務所は役者を育てようという気がなくて、若いうちに使い捨てをする気が満々じゃないですか。

具体的な作品名は挙げませんが、ヒットした作品にもそういうスタンスのものはいっぱいありますよ。個人営業の肩書として「アイドル」を掲げるのは構わない。でもね、それは歌とかの個人活動やファンの前だけにしてほしい。こんなの常識でしょ。ま、結果的にそれに加担している私も悪ですけどね。

―それが谷口監督の言う「アニメ業界の幼稚性」ですか。

谷口 こういう幼稚性といかに向き合っていくのかというのは難しいところでした。普通に役の説明をする時に「このふたりはセックスしている関係です」と言いますよね。ところがアニメの現場というのは、セックスという単語を言うのがなぜかはばかられる雰囲気があるわけですよ。言わないと説明できないから言いますけど(笑)。

こういう幼稚性をアニメ業界はいつまでも抱えていくのか、それと向き合っていくのか。そこは今後を考える上でのひとつのポイントでしょうね。