この子や

知的障害と自閉症のある尾野一矢さん(48)が、神奈川県座間市のアパートで一人暮らしを始めて間もなく1年になる。2016年7月26日、障害者19人の命が絶たれ、職員を含む26人が重軽傷を負った、あの凄惨(せいさん)な事件で腹などを刺されて重傷を負った。

 アパートは6畳の居間に台所、トイレ、浴室があるごく一般的な間取り。一矢さんが「かずやんち」と呼ぶ、お気に入りの居間にはソファ、テレビ、ベッド、たんすなどがあり、窓際には家族との写真が並ぶ。

 ある夜、「何が食べたい?」と介助者の大坪寧樹(やすき)さん(53)が尋ねると「カキフライ!」。別の日、「納豆食べる?」には「やめとく」。記者も尋ねた。どこにいるのが好きですか? 「かずやんち」と笑顔が返ってきた。

 「以前より自己主張をするようになり、言葉や笑顔も増えました。自分で生活を築こうという強い意思を感じます。安心できて心地よい居場所として根づき始めたのでしょう」。地域生活に向けて本格的に準備を始めた3年前から、一矢さんと歩んできた大坪さんはこう語る。