そのときが来た。ついに会ってしまうのか。
これが24歳で来るのか、と思った。
よっしゃあ、という感じじゃない。これはもう、やるしかないんだという、想像しただけで吐きそうなほどの緊張感。何しろただの一度も面識はないのに、いきなりのチームメイトだ。
最初に会ったのは、集合場所になっていた福岡のホテルのエレベーターだった。初めてのミーティングに行こうと、エレベーターを待っていた。そのとき、エレベーターから何人かの選手が降りてきた。
そのとき、あれっ、誰がいるんだ、という強烈なオーラを発する人がいた。
イチローさんだ。

ボーって、頭が真っ白になった。こういうとき、人間の頭って、ポーンとどっかに飛んでいくんだということを知った。ふと我に返って、オイ、おれは何をしなきゃいけないんだと考えた。そうだ、挨拶しないといかん。
「はじめまして、イチローさん、ソフトバンクの川崎です。よろしくお願いします」
そうしたらイチローさん、こう言った。
「あーっ、ムネ君でしょ」
その先のことはもう、何も覚えてない。もっと真っ白になった。
ミーティングでは王さんが何かしゃべってたけど、何も聞こえてこなかった。監督には申し訳ないけど、でも、仕方がない。一番前に座っていたイチローさんとことが気になって、しょうがなかった。
イチローさんからいきなり「ムネ君」と呼ばれてしまったのだから、天にも昇る気持ちだった。