リバプールとチェルシーは、FAカップの決勝戦で神経を削るようなPK戦を繰り広げた。
認知心理学の研究者として欧州全土にその名を轟かせるゲイル・ヨルデット氏はPK戦に挑む両指揮官のアプローチに着目。
両指揮官が「PK戦の前の5分間」をどのように過ごしたか、という視点で彼らのコミュニケーションを分析している。

まず、クロップは、延長戦終了からの60秒間で誰をPKキッカーにすべきかを迅速に決断している。
彼はそれぞれのキッカーに指示を与え、トレードマークである熱烈なハグで選手を鼓舞しながら、一対一のコミュニケーションで指示を伝えている。
ヨルデット氏はこのクロップのアプローチを「親密で、心理的な安全を確保するものであり、愛情に溢れている」と表現している
(中略)

ここでは、ヨルデット氏がコメントしていない「トゥヘルが何をしていたのか」という部分にも注目してみよう。
トゥヘルは最初にメンディーと会話し、アロンソとも何かを確認している。
アロンソから聞いたことをメモに記入しているように、トゥヘルはピッチ内でプレーする選手から「何かのヒント」を掴もうとしていたようだ。
トゥヘルは最初の1~2分で、PKキッカーの選択や順番に悩んでいたようだ。
メモを書き直しながらギリギリまで調整を続けていたようだが、結果的にトゥヘルが円陣に入る前にリバプール側はすべてを終わらせている。
チェルシーが円陣をスタートする前にリバプールは円陣を解いており、トゥヘルはこの段階でもまだ完全にプランを決められていない。
選手たちと会話しながら、彼はプランを固めていった。

ヨルデット氏がトゥヘルと比較しているのは、2021年のユーロ決勝におけるギャレス・サウスゲイト(イングランド代表監督)の失敗だ。
彼はトゥヘルと同様に、プランを決めていない状態で円陣をスタートしてしまった。
このように監督の準備が整っていないことで、選手たちは最終決定を焦った状態で知らされることになる。
それは強いストレスであり、選手たちは受動的になってしまいやすい。