【原文】

大手の白けつ

万治元年(一六五八)横山外記の子某が、その日の勤めを終え、城からの帰り道であった。

大橋を渡ろうとすると、橋の下に白いけつを出している怪物がいて、大声を上げて某に迫ってきた。 某は一時は驚いたが、そこは武士の子、すぐさま刀を抜いてこれを切った。

しかし、よくよく見ると、それは怪物ではなくて人だったので二度驚いた。某はすぐさま家に馳せもどってこれを父に告げた。外記はただちに登城してこのことを君に報告し、検死の調査を願い出た。

早速検死の結果、この者は岸波太郎左衛門の下僕であったという。この者、妖怪のまねごとをしていたらしかったという。この者、人を驚かすことが好きな変態者で、この日もだれかを驚かそうと仕組んだ妖怪だったろうという。

それはさて、この一件の解決に家老たちの意見がまとまらず、 飛脚をもって仙台へ伺いを立てたが、その返事がまだ届かないうちに、怪物は主人の命で切腹をしたということになった。以来、大手の白けつの話となったのである。

【コメント】

「千々古」とか「化けお多福」とかと同じような、人が妖怪のふりをしたもの(井上円了がいうところの「偽怪」)に分類されるものですね。

驚かすのが目的だったならなぜ尻を出そうと思ったのか…
https://i.imgur.com/HnFwjVB.jpg