オレは馬乗りを生業にしていたから、今でもテレビ越しに競走馬の声が聞こえる。特にメイケイエールの訴えは強く、画面を突き破ってくる。今回、オレは新馬戦からずっと聞いてきたメイケイエールの「心の声」を読者に届けようと思う。予想の参考になれば幸いだ。

 不良少女と呼ばれて、つらかった。どうして? 私はずっと全力で走ってきただけなのに「能力はあるけど気性が悪すぎる」って言われて・・・。
 ノーザンファームで初めてハミっていう硬いものを口の中に入れられた時は唇が痛かった。背中に鞍というものを背負わされて人を乗せた時、本当はすごく怖かった。でも、立派な競走馬になってみんなに喜んでもらいたいから、痛いことも怖いことも我慢した。そのおかげで私は他の子より少しだけ速く走れるようになった。
 生まれ故郷の北海道を旅立って、私は栗東トレーニングセンターに来た。すぐに周りの人間たちは褒めてくれた。
「この子は能力ありますよ。ヤル気があるから必ず活躍しますよ」
 うれしかった! 一生懸命やればみんなが褒めてくれる。私は何があっても頑張って走ろうと心に決めた。
 私はデビュー戦を迎えた。一生懸命に走って勝つことができた。私をエスコートしてくれた福永さんは「よく頑張ったね」って首筋をなでてくれ、さらにヤル気が出た。2戦目も3戦目も勝った。コンビを組んだ日本一のジョッキー武豊さんにも褒められ、私は天にも昇る気持ちだった。
>>3歳になった私は目標の桜花賞を前に張り切っていた。トライアルのチューリップ賞で勝った時、異変が起きた。周りの人が私を変な目で見るようになった。
「あの子は気性が悪い」「あれだけひっかかったらジョッキーがかわいそうだ」
 どうしていいか分からなかった。私は今まで通りに走っただけ。それなのになぜ? 不安な気持ちに押し潰されそうなまま桜花賞に出た。結果は惨敗だった。レース後の周囲の言葉が胸に突き刺さった。
「競馬以前の問題だね」
 悲しくて悲しくで馬房で泣いた。ただひたすら前へ前へと速く進もうとしただけなのに、私はいつの間にか「不良少女」と呼ばれるようになった。
 人間って勝手だなと思った。速く走れっていうから一心不乱に前に進んだのに、都合のいい時だけ行儀良くしろと言う。そもそも人間たちがいう「オリアイ」って何? 私にはさっぱり分からない。私はふさぎ込み、また涙が出た。
そんな時に現れたのが池添さんだった。泣いている私に「大丈夫。エールは一生懸命に走ってるだけだよね。僕はキミの気持ちが分かるよ」って言ってくれた。去年のスプリンターズSで4着に負けた時も寄り添ってくれた。池添さんは私を無理に抑え込もうとせず、私がいきたい時に一旦いかせてくれて、その後で私を落ち着かせてくれた。やっと理解してくれる人に出会い、私は初めて「オリアイ」が分かった気がした。
「エールちゃん、もうそんなに一生懸命じゃなくていいんだよ」
「え・・・だって・・・」
「これからは楽しんでいいんだ。僕と一緒に楽しく走ろうよ」
「楽しく走る?」
「そう楽しく走ればいいんだ。君は決して不良少女なんかじゃない。それをレースで証明しよう。僕と一緒にね」
 身を委ねよう。すべてをこの人に。心の底からそう思った。スプリンターズSは池添さんと2人でシャンソンに合わせて踊るように楽しく走り、一番にゴールを駆け抜けるんだ。もう不良少女なんて呼ばせない。この決意をたくさんのファンに伝えてね、田原さん。お願いよ。

 エールちゃん、キミのメッセージは確かに受け取った。池添くんと息の合ったダンスを見せてもらうよ。ファンを代表して、キミにこの印を打つよ。応援の♡(ハート)の印を!