欧州が戦争に向かうことに気付いたノガーラはイタリアの軍需産業の多くに、事実上企業を買い取るまでに投資した。こうしてムッソリーニ政権によるアビシニア侵攻とそれに続く第2次世界大戦の間に、ヒトラーからの「教会税」収入、イタリアおよび各国の軍需関連産業からの収益などで、バチカンは巨万の富を稼ぐことになる。米国の「黒い法王」フランシス・スペルマン枢機卿はノガーラの偉大さを「イエス・キリストに次ぐ」と表現した。本音は「キリストよりも」だったろうが。

 もっとも、教皇ピオ12世とその一族であるパセッリ家、後にバチカン銀行総裁となるP2マフィアの統領ミケーレ・シンドーナや「シカゴのゴッドファーザー」ポール・マーチンクスらが作り上げた、麻薬や武器取引等の闇資金洗浄による「上がり」を含む収益は、ノガーラのそれよりもはるかに大きいと言われている。しかしその先鞭をつけたのはこの男である。

 バチカンとユダヤとの関係は財政面にとどまるはずがなかった。ローマ教会がローマ帝国の延長であり、欧州、ひいては世界の政治的支配を目指す方向性を内包している以上、バチカンとユダヤの関係は次の局面に向かわざるを得ないのだ。

 なお、バチカン銀行の資産運用は長年アンブロシアーノ銀行が行っていたが、例のP2がらみのスキャンダルで1982年に同銀行が倒産して以来、主にロスチャイルド銀行とクレディ・スイス銀行が行っている。