「オギャー、オギャー!」

 やれやれ、と僕は思った。
 ある程度想像はしていたものの、実際にこの状況は中々こたえる。当面はこのオギャーなる言葉一つで全てのコミュニケーションを取る必要があると思うと気が滅入った。

 気を取り直して、僕が今しがた転生したこの素晴らしい異世界の姿を捉えようとする。だが視力が未発達なためか、全てがぼやけていてどうにも焦点が合わない。その向こうに辛うじて女性らしきシルエットがおぼろげに見えるが、あの人が僕の母親なのだろうか?

「よろしくお願いします」
 これから大変お世話になるだろうから、僕は女性に丁寧に挨拶した。
 というかしたつもりだったが、実際僕の口ついて出たのは「オギャー」という泣き声だけだった。