1)「公然と」とは
不特定または多数の人に情報が伝達され得る状態のことをいいます。大勢の人が行き交う街中やインターネット上の匿名掲示板などが典型ですが、特定かつ少人数しかいない場合でも、その人たちを通じて多数の人に伝わるおそれがある状態であれば、これに該当します。

たとえば少人数のグループLINEの中であった発言でも、誰かがほかの人に伝える危険があれば、「公然と」といえる可能性があります(伝搬可能性)。

反対に、自分と相手しかおらず、話し声がほかの人に聞かれることのない密室で発言した場合や、相手方に職務上の守秘義務があるためにほかの人に知られるおそれがない場合などには、「公然と」とはいえません。
(2)「事実を摘示する」とは
人の社会的評価を低下させるだけの具体的な事実を示す行為のことです。ここでいう事実とは、具体的な事柄という程度の意味であって、真実とは異なります。

具体的な事実といえるかどうかは、示された情報の真偽を証拠などによって確認できるかどうかで判断できます。

たとえば、「芸能人の○○は整形している」「○○の息子は高齢者をだまして金銭を得ている」などと表明する行為は、真偽の確認対象となり得るため、具体的事実の摘示にあたります。これに対して、「バカ」「ブス」のように、個人の主観に左右される評価や感想は情報の真偽を確認できないため、具体的な事実とはいえません。
(3)「人の名誉を毀損する」とは
ここでいう名誉とは、世間の評価や名声などの外部的名誉のことを指します。プライドや自尊心などと呼ばれる名誉感情は含まれません。毀損とは社会的評価を低下させるおそれのある行為のことです。実際に社会的評価が低下することまでは求められず、低下のおそれがあればよいとされています。

たとえば犯罪行為や不貞行為をしたという事実の表明は、相手方の社会的評価を下げるおそれがある行為でしょう。

また、第三者から見て対象者が誰かを特定できる必要がありますが、氏名を明示しなくても察知可能であれば名誉毀損罪は成立する可能性があります。芸能人の芸名やインターネット上のハンドルネーム、伏せ字や当て字などを用いた場合でも、容易に個人を特定できるものであれば名誉毀損罪が成立するケースがあります。
(4)「事実の有無にかかわらず」とは
発言や書き込みの内容の真偽を問わないという意味です。つまり、うそでも本当のことでも、吹聴したり書き込んだりした場合、名誉毀損罪は成立し得るのです。