時代の流れは確実に変わりつつあった。明るさ、華やかさ、生命力、
そんな様々な要素が混じりあいながら其処彼処に溢れ出し一つの空気を作りあげ始めていた。
この時代ではっきり覚えていることがある。私はタクシーに乗っていた。
車はちょうど藤色と薔薇色に染まった夕空の下、ビルの谷間を滑るように進んでいた。
私は言葉にならぬ声で叫び始めていた。
そうだ、私には分かっていたのだ。自分が望むもの全てを手に入れてしまった人間であり、
もうこの先これ以上幸せにはなれっこないんだということが。