「髪、伸びたっすね」
「ずっと帽子被ってることなくなったからな、伸ばしてんねん」
「なら僕みたいな髪型にしてみますか?」
「絶対やらへんわ、アホ」

先生は僕の冗談をあっさりとかわして、コーヒーを啜った。風に吹かれて毛先が揺れている。
許されるならばその髪に触れたかった。
優しく撫でて微笑んで欲しかった。

もう数ヶ月も前に、僕の告白はフラれてしまっている。愛おしそうに触れることは許されない。
「それなのに、どうして僕と会ってくれるんですか」と聞きたい気持ちを胸にしまって、残り少なくなったコーヒーを飲み干した。

「ごちそうさまでした」
「おう、お前のことも応援してるから優勝取ってこい」
先生が握りこぶしの右手を掲げて微笑んだ。
そんな些細な仕草でも、ブラックコーヒーにミルクが入れられたように僕の心には甘い気持ちが広がっていく。

「……やっぱり、好きっす」
どうしたって溢れ出す想いは抑えられない。